パリ・パラリンピックが開幕した8月29日、スマホでInstagramを眺めていると、私の「推し」のストーリーズが目に入った。プロ野球・オリックスバファローズの山下舜平大投手(22歳、愛称:ペータ)が写真を2枚、投稿していた。
1枚は、前日行われたソフトバンク戦で、ペータが登板した姿を捉えたものだ。
オリックスの球団公式アカウントは毎試合、活躍した選手の写真をアップする。その中からペータが自身の写真をシェアすることはこれまでもしばしばあった。しかし、もう1枚は、ペータ自身が映ったものではない。パラ・バドミントンの梶原大暉選手(22歳)の写真だった。
えっ?、何?
ペータが、パラリンピックの選手を応援してる?!
私はこれまで20年近く、障害者スポーツ(パラスポーツ)の競技や選手の魅力を情報発信する活動を続けてきた。パラスポーツの競技・選手は、私にとって長年の「推し」だ。
推しが、推してる!
スマホの画面をそのまま胸に当てた。
鼓動が速くなっている。
手のひらが汗ばんできた。
梶原は、バドミントンがパラリンピックの正式競技となった東京パラリンピック(2021年開催)に出場し、男子シングルス(WH2/車いす)の金メダルを獲得した。圧倒的な強さを維持しつづけており、シングルスの公式戦連勝記録は121。パリ・パラリンピックでは金メダル獲得、大会2連覇を狙っている。
ペータは、2020年のドラフト1位指名投手。昨年は大活躍して、パ・リーグの新人王にも輝いた。
プロ野球と、パラ・バドミントン。
それぞれの競技で活躍する2人に、どんな繋がりがあるのか。
山下舜平大と梶原大暉の名前で検索してみると、スポーツ新聞の記事がヒットした。
オリックス・山下舜平大
“少年野球時代のチームメイト”は東京パラ金メダリスト、パリへエールおくる
2人は、ともに福岡出身で、同じ少年野球チームに所属していたチームメイトだった。 ペータは梶原選手が交通事故で右足を切断する前、野球をしていた頃の姿を覚えているようだ。2人は一緒に野球を練習した仲間で、小学生の頃から知り合い、友達なのかもしれない。
そもそも、私がペータを推すようになったのは、車いすの観客とのやりとりがきっかけだった。
2023年のセ・パ交流戦。神宮球場で開催されたオリックス対ヤクルト戦で、ペータは勝利投手となった。ヒーローインタビューを終えて球場を後にする出口付近、ペータは、客席の一番前に立っていたスタッフにウイニングボールを手渡した。
「あちらの方に」と、ペータが手で示した先には、車いす専用の応援席があり、車いすの男性が1人、その傍らに同行者と思われる男性が1人座っていた。ボールは、スタッフを介して、車いす席の男性のもとに渡った。この様子は、NHKの野球中継の映像で捉えられ、アナウンサーの「山下がファンの方にボールをプレゼントしたようです」という説明もあった。
そのテレビ映像がSNSで拡散され、私のX(旧Twitter)のタイムラインにも流れてきた。
どのような投手なのかよく知らなかったが好感を持ち、「推したい!」と思ったのだ。
2人の繋がりを知ってから約1週間。
パリ・パラリンピックでは9月2日、バドミントン・男子シングルス決勝が行われ、梶原が金メダルを獲得、2連覇を達成した。
ペータは、9月4日の西武戦で先発し、白星を挙げた。
翌日、勤務先へ向かう電車の中で、私はスマホの画面上で指先に集中した。
Instagramでフォローしているアカウントの中から、今すぐに見たいアカウントを探す。
ペータは、新しいストーリーズをあげていた。
西武戦で撮影された自身の写真を1枚。
パリで金メダルを獲得した梶原の写真を1枚。
スマホの画面で、2枚の写真がスーッスーッと流れている。
再び、山下と梶原について検索すると、スポーツ新聞の記事が見つかった。
オリックス・山下舜平大が自身3連勝で3勝目
盟友の車いすバドミントン梶原大暉に刺激
ペータがストーリーズにあげた写真には、特にコメントは添えられていない。
ただ、写真をあげているだけだ。
しかし、パラリンピック開幕にあわせて、梶原の写真をストーリーズにあげたのは「応援しています」というメッセージに違いない。 金メダル獲得した梶原の写真をあげたのは、「おめでとうございます」だろう。
競技種目は異なるけれど、アスリートとして「リスペクトしています」というメッセージも込められている気がする。
推しが、推した。 それは、私にとって「尊い」としか言いようがない出来事だった。 (河原レイカ)
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