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【連載】絶対王者不在の東京マラソン(2)

 






 3月3日。東京の上空は青く澄み渡っている。

 東京駅の丸ノ内改札口を出ると、すでに、東京マラソンのゴールが設置されていた。これから始まる交通規制のため、警察官の姿があちこちに見える。丸ノ内のオフィスビルにある取材者用のプレスセンターまで歩いて向かう。頬に当たる外気は、寒くはなかった。スマホで確認した気温は9度。マラソンを走るランナーには少し暖かいかもしれないが、暑すぎることはないだろう。 


 オフィスビルの7階に設けられたプレスセンターの会議室には、大型のスクリーンにテレビ画面が映し出されていた。東京都庁前のスタート地点には、競技用車いす(レーサー)に乗った選手たちが列をつくって並んでいる。一番前列に並んでいるのは、国際大会などで実績のある有力選手たちだ。 彼らの様子を伝えているアナウンサーの髪の毛に動きがあるかどうか、目を凝らす。スタート地点付近には、風がほとんどないようだ。気象条件は、絶好のマラソン日和になっている。


 午前9時5分、号砲が鳴った。 

 選手たちの両手が、レーサーの車輪の外側に付いている漕ぎ手(ハンドリム)をぐっと下へ押しだした。選手たちの背中で肩甲骨がいったん寄り、左右に広がる。上腕の筋肉がぎゅっと収縮し、ぐんと伸びる。両腕から両手へ、さらにその先のレーサーのハンドリムへ伝えられた力が、レーサーを前へ動かしていく。レーサーの車体が滑るように走りだし、徐々にスピードが上がっていった。


 「チャレンジしたい。1時間21分台を目標にしたいです」 レースの2日前に行われた招待選手の記者会見で、昨年の東京マラソン2位の鈴木朋樹(トヨタ自動車、29歳)は、42.195キロの目標タイムを口にした。具体的な記録を目標に掲げたのは、今夏にフランス・パリで開催されているパラリンピックのマラソンへの出場を目指しているからだ。 

 

 パリ・パラリンピック・車いすマラソンの日本代表選手は、日本パラ陸上競技連盟が定めた規定に基づき選考され、今年6月下旬に推薦される予定になっている。パリ・パラリンピック出場の可能性を高める方法の一つは、世界パラ陸上競技連盟(WPA)公認のマラソンレースで好記録を出し、記録に基づいて作られるランキングの順位をより上位へ上げておくことだ。このランキングで、鈴木は4位。今回の東京マラソンで、ランキング2位の選手の記録1時間23分49よりも好タイムを出せば、ランキングの順位を2位まで押し上げることができる。


 1時間21分台は、2020年3月の東京マラソンで鈴木が出した大会新記録1時間21分52を踏まえたものだ。 「2020年の大会で、そのくらいのタイムで走っているので、できないことはないと思っています」 目標は、明確だ。それを口にできるのは、達成できるという自信があるからではないか。東京マラソンに向けたトレーニングで、自身の走りに良い手ごたえを感じているのかもしれない。(つづく)


(取材・執筆:河原レイカ)

(写真提供:小川和行)

写真は、鈴木朋樹選手

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