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【世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会】雨中で “鉄人” たちが熱戦。ロサンゼルス2028への確かな一歩

  • paraspoofficial
  • 5月24日
  • 読了時間: 7分

PTVI(同6組): 5位:樫木亮太(Sky)&水野泉之介ガイド
PTVI(同6組): 5位:樫木亮太(Sky)&水野泉之介ガイド

横浜市の初夏の風物詩、「ワールドトライアスロンパラシリーズ(2025/横浜)」が5月17日、横浜市・山下公園周辺特設会場で開かれた。同シリーズはパラトライアスロンではパラリンピック、世界選手権につぐグレードのシリーズ戦で、今大会には世界ランカー男女合わせて約70選手がエントリー。あいにくの雨中でのレースとなったが、男女それぞれ障害別の6カテゴリーでハイレベルなパフォーマンスが展開された。

 

パラトライアスロンは通常、スイム(750m)、バイク(20㎞)、ラン(5㎞)の計25.75㎞で競うが、今大会は雨の影響を考慮してバイクコースの一部が変更され、4.245kmを5周する21.226kmとなったため、変則的な26.976kmで競われた。

 

日本からはパラリンピックメダリストから初参戦の選手まで、男子9選手、女子3名が出場し、うち4名が表彰台に上がった。



秦由加子選手
秦由加子選手

女子は出場3選手がメダルを獲得した。全3選手が出場したPTS2(下肢障害)では3大会連続のパラリンピアン、秦由加子(キヤノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・ブリヂストン)は2位、横浜大会エリートの部は初参戦だった保田明日美(三重県トライアスロン協会)が3位だった。

 

ランパートの終盤でランを得意とする保田が2位に上がったが、再び抜き返した秦は、「日本人で競い合う形で刺激になり、いいレースができた」と振り返った。

 

秦にとって今大会はパリパラリンピック以来の「復帰戦」だった。昨年、パリ大会まで2カ月となった6月末、練習中に落車して左肘を骨折した。患部をワイヤーで固定する手術後の回復も遅れ、パリ大会は「ふがいなく、悔しいレースになった」。今年1月にワイヤーを抜く手術を終え、2月中旬頃からようやく練習に復帰した。

 

「パリは自分史上、最高の状態で臨むことができなかった。もう一度、パラリンピックの舞台に立たい」という思いから、今大会に向け、急ピッチで仕上げてきた。「これからだなという思い」で臨んだレースは次のロサンゼルス大会への一歩として、「思ったよりよかった」と安堵の表情を見せた。



保田明日美選手
保田明日美選手

健闘した保田は元々、パラ陸上競技でパラリンピックを目指してきたが、新たな可能性を広げようと昨年からトライアスロンにも参戦を始めた「二刀流」だ。陸上でのメインはパラリンピック種目の100mと走り幅跳びだが、並行して5000mやマラソンなど持久系種目にも幅広く挑んできた。トライアスロン挑戦は自身も複数競技に挑んできたパラリンピアン、山本篤さんなどの勧めもあり、「自分の特性を生かせるのでは」と決断した。

 

横浜大会は昨年、エイジパラの部に出場。その後、アジア選手権などを経験し、今年から世界ランカーが集まるエリートの部で出場を果たした。「始めたばかり」というスイムやバイクでは出遅れたが、陸上経験が活かせるランで前を追い、中間点を過ぎてからスパートをかけた。秦をとらえた直後、「脚がもつれて、そこから動かなくなってしまった。単純に実力の差。結果は受け止めている」と自身を評価した。

 

悪天候のレースは初めてだったそうで、「雨の中で練習もしてきたが、レースではスピード感も違うし、トランジションも濡れたなかでの義足の履き替えが難しく、濡れたままでスタートして、最後に滑ってしまって、走り切れなかったのが悔しい」と振り返った。

 

陸上競技仲間のパラリンピアンたちから刺激を受け、「自分も大きな舞台で戦いたいと思っている」。この日は「日本代表としての重みや誇りをもって戦った。緊張感はあるが、とても楽しめた」と清々しい表情だった。

 

楽しみな新人の登場をベテラン、秦も喜んだ。「保田選手は陸上出身でランが強く速い。動画を録ったり、一緒に練習しながら、参考にさせてもらっている」と話し、義足について相談しあえるもメリットも口にした。豊富なレース経験や心がまえなどを保田に授けることもあると言い、「切磋琢磨しながら、海外の選手に立ち向かっていこうと二人で話している」という。



谷真海選手
谷真海選手

PTS4では東京2020大会代表の谷真海(サントリー/東京)が4選手中3位に入った。「前日から雨と分かっていたので気持ちを上げていった。スイムで出遅れて悔しいが、最後まで気持ちを切らさずに走った」と言う。

 

パリ大会出場は逃したが、練習は継続。とはいえ、ロサンゼルス大会は「まだ考えられない。今に集中したい」と話した。その今は「いつもレースが決まってしまう」として課題にしているバイクの強化に取り組んでいる。「成果はまだ」というが、1番

のモチベーションは、「自分自身の成長ですね。まだ欲があるので」と、前を見据える視線は力強かった。。

 

■男子も、それぞれの手応え


木村潤平選手
木村潤平選手

 

男子では5選手が出場したPTWC(車いす)で木村潤平(Challenge ActiveFoundation)が3位に食い込んだ。4番手でフィニッシュしたが、先着した選手の中に5周回すべきバイクパートを4周回しか走っていなかったことが分かり、繰り上げで3位となった。

 

「雨だったが、逆にチャンスかなとも思っていた。棚ぼただが、3番に入れたので、諦めずに走り切ってよかった」と話した。パリ大会後、今年1月から練習に復帰し、バイクの新調やラン用の競技用車いすの調整などを行い、まずはそうしたマシンに自身の体をフィットさせることを取り組んできたという。

 

「トライアスロンはエンジンとなる体と(乗り物の)メカが調和しないと結果が出てこない。まさか、ここまで早くかみ合うとは思っていなかった。まだまだ上げていきたい。楽しみ」と、今後の躍進を誓った。



宇田秀生選手
宇田秀生選手

東京2020大会銀メダルの宇田秀生(NTT東日本・NTT西日本/滋賀)は昨年のこの大会を、体調不良により途中棄権。その後、貧血と診断されて、調子が上がらないままパリ2024大会は12位に終わった。現在も治療は継続中ながら、リベンジを期した今大会は男子PTS4で10人中5位と健闘。「しっかり最後まで走り切れたのは嬉しい。まだ本調子ではないが、現状を確認できてよかった。上出来かな」と冷静に振り返った。

 

本調子にはまだ、「7割くらい、感覚的に」と言い、練習の質も量も戻せていないというが、体調と相談しながら低酸素下トレーニングなどで強化を続けている。「貧血でも動けているので、そこは強くなっている証拠かな。ここから焦らず、ゆっくり上げていく作戦を考えている」

 

再起を期すロサンゼルス2028大会に向け、「まずは出場を目指し、ちょっとでもいい結果を残すために努力していく」と力を込めた。

 

12選手が出場した男子PTS5には日本からは3名が出場した。ノルディックスキーとの二刀流で、トライアスロンではリオ2016大会代表の佐藤圭一(愛知県トライアスロン協会)が日本人トップの10位に入った。「嬉しいのは嬉しいが、僕より新しい世代の選手に上にいってほしい気持ちがある。だからといって、僕が力を緩めるわけではないが・・・。若い世代が世界で活躍できるようにお手伝いしたいし、僕もより上に行けるようにがんばりたい」と話した。

 

なお、パラトライアスロンのナショナルチームは昨年12月、オリンピアンの福井英郎氏(シドニ2000大会日本代表)がヘッドコーチ(HC)に就任し、新体制での強化を始めている。福井HCは今大会の結果について、「もう少し戦えるかと思った」と辛口だったが、「新体制になってまずは、チームビルディングをやってきたので、練習の内容や強度、質など選手それぞれの強化はこれから。スタッフと選手ともに、次に向かってきちんと、それぞれの課題を強化したい。日本チームとして『世界に戦いに行こう』という気持ちが足りていないという印象があった。最初の2年はしっかり戦えるようにしたい」と強化プランを語った。

 

これまでの強化体制で培ってきた経験や実績も生かし、福井HCは、「良かった部分も残しながら、新しいことにも積極的にチャレンジしていきたい。スタッフ間での情報共有などかオリンピックのナショナルチームとも連携を深め、強化策に生かしていきたい」と話した。

 

「新体制となって、ポジティブな気持ちで練習できている」と話した木村をはじめ、選手たちからは好感触がうかがえた。チーム一丸で目標を見据え、さらなる高みを目指していく。

 

<その他の男子選手結果>

PTS2(出場6選手): 6位: 中山賢史朗(東京都トライアスロン連合)

PTS4(同10選手: 9位:金子慶也(ジール)

PTS5(同12選手): 11位:安藤匠海(ニューバランス)/DNF:永田務(サムティアセットマネジメント)

PTVI(同6組): 5位:樫木亮太(Sky)&水野泉之介ガイド/6位:山田陽介(東京都トライアスロン連合)&寺澤光介ガイド


       (取材・撮影:フリーライター/星野恭子)

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